中小企業を取り巻く経営環境は、変化のスピードと競争の激しさが増す一方です。
そんな中、「訪問件数を増やす」「片っ端から営業をかける」といった“量”の営業スタイルだけでは、思ったほど成果につながらない……そんな悩みを抱える企業も多いのではないでしょうか。
そこで注目されているのが、ABM(アカウントベースドマーケティング)という“企業を絞り込んで深く攻める”営業/マーケティング手法です。
ABMはただの営業手法ではなく、組織としての営業力と再現性を高める「構造」を変えるアプローチ。
本記事では、中小企業や経営者の視点に立ち、ABMの基本から導入メリット、注意点、実践ステップまでを解説します。Managers-Webの読者にこそ読んでほしい内容です。
ABMとは?──“追いかける営業”から“選ぶ営業”への転換
ABM(Account Based Marketing)は、これまでの「たくさんリードを集めて、その中から契約先を探す」という流れではなく、最初から“注力すべき企業(アカウント)”を絞り、その企業ごとに最適なアプローチを戦略的に行うという方法です。
たとえば、あなたの会社が “高付加価値サービス” を提供するなら──
多くの会社に片っ端から提案をするよりも、サービス内容にフィットする可能性が高い企業だけを厳選し、丁寧に関係構築するほうが、受注率や長期契約につながる確率は高くなります。
ABMが注目される背景には、競争激化/購買プロセスの複雑化/営業リソースの制限といった現代のBtoB営業の課題があります。
なぜ今、ABMが中小企業に向いているのか?
「ABMは大企業向けのハイレベル戦略」と思われがちですが、実は中小企業こそ導入メリットが大きい場面があります。
主な理由は以下の通りです。
- 営業リソースが限られているからこそ、的確に集中する必要がある
- 高付加価値サービスを扱っており、少数でも高単価受注を狙いたい
- 訪問件数やリード数ではなく、質で勝負するビジネス
- 営業/マーケティング部門が分かれていない、チーム構成が小さいため、全体最適を図りやすい
中小企業では「数」よりも「どこに集中するか」が重要。
ABMは、限られた資源を最大限に活かす“選ばれた企業重視型”営業モデルとして、非常に合理的な選択肢になり得るのです。
ABM導入で得られる4つのメリット
1. 無駄な営業・リソース配分の削減
従来の営業では、「とにかくアポを取る」「数をこなす」というスタイルになりがちで、リソースが分散しやすくなります。
ABMでは、最初に優先企業を絞るため、無駄な訪問や提案を減らし、効率的に成果につなげやすい。
結果として、営業1人あたりの生産性が向上し、人的コストを削減できる可能性があります。
2. ターゲットごとにカスタマイズした提案で受注率アップ
企業ごとに抱える課題や業界、規模、ニーズは様々。ABMでは、各企業の事情に合わせた提案内容・タイミング・コミュニケーション手段を設計できます。
これにより、「この会社のための提案」という印象が強まり、価格競争に巻き込まれずに契約につながる可能性が高くなります。
3. 属人的ではない「組織としての営業力」の構築
ABMでは、接点履歴・企業データ・提案内容・反応などをツールで一元管理できるため、営業担当者が変わっても対応品質が落ちません。
これにより、「この人にしかできない営業」ではなく、「誰がやっても同じ成果が出せる組織」をつくることが可能になります。
4. データに基づく改善と再現性のある営業体制の実現
ABMでは、どの企業が、どのタイミングで、どんな反応を示したかを数値で追えるため、後から改善ポイントを分析しやすいのも大きな強み。
成功パターンの蓄積と改善サイクルをまわすことで、営業力の底上げと、長期的な成果の安定化が図れます。
ABM導入の流れ:中小企業にぴったりの実践ステップ
- 理想のクライアント像(ペルソナ企業)を設定
例:業種、規模、課題感、将来性、決裁構造などを明確化 - 営業とマーケティングで共通の目標・KPIを設定
接触頻度、アプローチ数、提案通過率、商談化率などを共有 - 顧客データベース or ABMツールを導入
接点履歴、企業情報、反応ログなどを一元管理できる仕組みを整備 - 企業ごとに提案内容・接点シナリオを設計
メール配信、資料送付、タイミング、担当者を企業ごとに最適化 - アプローチ実行 → 反応・進捗データの記録
成果が出た/出なかった企業を明確にし、次の施策に活かす - 定期的な振り返りと改善サイクルの実行
効果の高い提案やタイミングをテンプレ化し、組織全体で共有
注意点:ABM導入で陥りやすい罠
ただし、ABMは“万能”ではありません。導入時に以下のようなポイントをおろそかにすると、期待した効果が出にくくなります:
- ターゲット企業の定義があいまい → 絞り込みが甘くなる
- 営業とマーケティングで役割・目標の共有が不十分 → 連携が崩れる
- ツールや仕組みだけに頼り、戦略がブレる → 成果が安定しない
- 初期から多くの企業を対象にしすぎる → 管理漏れ・非効率が発生
特に、中小企業などリソースに限りがある場合は、小さく始めて徐々に拡大するアプローチが安全で、効果も得やすいです。
まとめ:ABMは「量」ではなく「質」で勝負する、中小企業の新しい営業戦略
営業活動をただ広く浅く行う時代は終わりつつあります。
これからは「どこに資源を投入するか」「誰に届けるか」を精密に見極める営業スタイルが求められています。
ABMは、小規模でも高い成果を目指す中小企業にこそ合った、効率と再現性の高い営業/組織モデル。
今までの営業スタイルに疑問を感じている経営者・営業担当者の方は、ぜひABMを新たな選択肢の一つとして検討してみてください。
